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カレーライス第2話

 ある朝を迎えた。私が住んでいる水槽に灯りが灯るのは主が起きてすぐである。主は出勤時間がまばらなので起きる時間は決まっていないが、必ず午前5時、午前6時、午前7時とアラームを鳴らす。だから私の一日の始まりは午前7時を過ぎたあたりからだ。
 寝ぼけ眼の主は私には一切関心を示さず、洗面を済ませ、下の階へと降りていく。食パンがあればそれを、それがなければ茶碗一杯の白米を昆布などを添えて食べる。私の食事も固形フードで変わり映えしないが、人間の食べ物も普段は餌に近いものを食べているようだ。
 食事を終えた主はまた部屋へと上がって、今度は制服に着替える。何事につけても心配性な性格の主は時間についてもそうなのだ。30分で着く職場に1時間30分前に家を出る。余った時間は職場の手前のサービスエリアでつぶしているようだ。
 今日も主は出勤していった。誰も居なくなった部屋で私の世界は静かに時を刻む・・・

カレーライス第1話

 部屋の扉が開いた。主が帰ってきたのだ。制服を脱ぎいつものハンガーへとかける。ラフな格好になった主は2台のPCの電源を入れた。電源がオンになって数秒経つと彼はネットの海へと吸い込まれる。私はその後ろ姿を眺めながらじっと底砂にうつ伏になっているのだ。水槽の中には私の他に同じ種族の仲間が二匹居て、さらに姿に派手なブルーとレッドのラインの入った人間の呼ぶ所のカージナルテトラが一匹、水中を漂っている。私の名前はオトシンクルスという。つまりこの四匹が私の住んでいる世界の住人達だ。

 主の年齢は45歳。性別は男で、その歳になっても結婚もせずにフリーターをしている。主の唯一の趣味は自転車に乗ることで、晴れた日には私には目もくれず、サイクルジャージを身にまとい、あちらこちらとブラブラとしている。自転車に関してだけではなく主には友という存在が居ない。孤独が好きな男と言ってしまえばそれまでだが、社交性に欠け、性格も明るいほうではないのがその原因の一つかと思う。

 主がネットの海を泳ぎ終えるのはベットに横になる少し前である。PCの電源を落とすとおもむろに私達の住処へと近づき様子を窺う。生きているかどうか心配をしてくれているようで、その点では飼われているほうからすれば愛情を感じる瞬間である。固形の食事が切れているようだと、少しだけ手で割って静かに水中へと放ってくれる。今日もヒラヒラと落ちてきた。その食事に口をつけるのは部屋の灯りが消え、主が深く寝入った後ということになる・・・